
プリント基板(PCB)設計において、EMC(電磁両立性)対策は不可欠です。電子機器が適切に動作するためには、不要なノイズを抑え、信号品質を向上させる必要があります。特に、高速信号を扱う現代の電子機器においては、EMC試験に合格することが製品の市場投入に直結するため、設計段階で適切な対策を施すことが重要です。
本記事では、EMC試験を通過するための設計手法や、グラウンドプレーン、信号インテグリティの最適化方法について詳しく解説します。
PCB設計におけるEMC対策の重要性
電子機器のEMC対策は、製品の信頼性や市場での適合性を確保するために欠かせません。本章では、EMCの基本概念と試験基準について解説し、なぜPCB設計におけるEMC対策が重要なのかを詳しく説明します。
EMC(電磁両立性)とは?
EMC(Electromagnetic Compatibility)とは、電子機器が適切に動作し、外部へ不要なノイズを放出せず、また外部の電磁波による影響を受けにくいようにするための設計基準です。
電子機器は、さまざまな環境下で使用されるため、外部ノイズへの耐性を確保しつつ、自らが発する電磁波を抑えることが求められます。このため、製品の開発段階からEMC対策を施し、安定した性能を実現することが不可欠です。
EMC試験における基準と規格
EMC試験は、電子機器が適合すべき国際規格に基づいて実施されます。代表的な規格として以下のものがあります。
規格名 | 説明 |
---|---|
CISPR(国際無線障害特別委員会) | 家電製品や産業機器のノイズ測定基準を規定 |
IEC(国際電気標準会議) | 電磁適合性を含む電子機器の標準を策定 |
FCC(米国連邦通信委員会) | アメリカ国内で使用される電子機器のノイズ制限 |
これらの規格に適合することが求められ、市場投入前にEMC試験をクリアしなければなりません。特に、EMI(電磁干渉)試験とEMS(電磁耐性)試験の両方を適切に実施し、電子機器の動作が安定していることを確認する必要があります。
グラウンドプレーンの最適設計
PCB設計におけるEMC対策の中でも、グラウンドプレーンの設計は極めて重要な要素です。ここでは、グラウンドプレーンの役割や最適な設計方法について詳しく解説します。
グラウンドプレーンの役割
グラウンドプレーンは、プリント基板(PCB)の電気的安定性を確保するための重要な要素です。適切に配置されたグラウンドプレーンは、電流のリターンパスを短縮し、信号品質を向上させると同時に、電磁ノイズを低減する役割を果たします。特に、高速信号を扱う回路では、グラウンドプレーンの設計が信号の波形や伝送特性に大きな影響を与えるため、慎重に検討する必要があります。
また、グラウンドプレーンの連続性を確保することも重要です。途切れたグラウンドプレーンは、リターン電流の流れる経路を遠回りさせ、不要な電磁放射やノイズの発生につながります。適切な配置によって、信号の整合性を確保しながら、外部環境への影響を最小限に抑えることが求められます。
グラウンドの分割と適切な配置
グラウンドプレーンは、信号系統や電源系統ごとに適切に分割する必要があります。例えば、アナログ回路とデジタル回路を同じグラウンドに配置すると、デジタル回路のスイッチングノイズがアナログ回路に影響を及ぼし、信号の品質が低下する恐れがあります。そのため、回路の特性に応じたグラウンドの分割と、適切なリターンパスの確保が重要です。
さらに、グラウンドと電源プレーンの間に適切なデカップリングコンデンサを配置することで、グラウンドインピーダンスを低減し、高周波ノイズの影響を最小限に抑えることができます。
高速信号伝送におけるルーティングのポイント
高速信号を扱うPCBでは、適切なルーティングがノイズ抑制や信号品質の向上に直結します。ここでは、EMIを低減するためのルーティング技術や、クロストークを防ぐ設計方法について詳しく説明します。
EMIを低減するルーティング技術
PCBの配線(ルーティング)を適切に設計することで、EMI(電磁干渉)を低減できます。信号線の長さを最小限に抑えることで、不要な放射ノイズを低減することが可能です。また、信号のリターンパスが適切に形成されるように設計することで、電磁放射を抑制できます。
また、差動信号配線を利用すると、電磁波の放射を低減し、ノイズの影響を軽減できます。特に、高速デジタル信号では、差動信号を適切に配置することで、信号の整合性を向上させ、誤動作を防ぐことが可能です。
クロストークを防ぐための設計
クロストークは、隣接する信号線間でノイズが伝播する現象です。これを防ぐためには、信号線の間隔を広げることが有効です。特に、高速信号を扱う回路では、適切な配線間隔を確保することが重要です。
また、信号線とグラウンドプレーンを適切に配置することで、信号の伝送特性を改善し、クロストークの影響を抑制することができます。
シールド技術とノイズ低減手法
EMC対策の一環として、シールド技術やフィルタリングを活用することで、外部ノイズの影響を最小限に抑えることが可能です。ここでは、シールドの役割や実装方法、さらにフィルタリングによるノイズ抑制について詳しく説明します。
シールドの役割と実装方法
シールド技術は、外部ノイズから電子機器を保護するために重要な手法です。シールドケースを利用することで、外部からの不要な電磁波を遮断し、内部回路の安定性を確保できます。また、適切なグラウンド接続を行うことで、シールド効果を最大限に引き出すことができます。
フィルタリングによるノイズ抑制
ノイズを抑制するための基本的な手法として、フィルタリング技術が挙げられます。コンデンサを使用することで高周波ノイズを効果的に除去し、インダクタを用いたフィルタ回路を導入することで、電源ラインに発生するノイズを低減できます。
まとめ
本記事では、グラウンドプレーンの最適化、ルーティングの工夫、シールド技術の活用など、PCB設計における重要なポイントを解説しました。これらの手法を理解し、設計に取り入れることで、EMC試験の合格率を向上させることが可能です。 特に、グラウンドプレーンの適正な配置やルーティングの工夫、シールド技術の活用が重要です。